ブログ記事
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がまもなく打ち上げられる状況で今、知っておくべきこと
NASAは長年にわたる研究開発を経て、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) がついに正式に宇宙に向かうことを発表しました。その打ち上げ予定日は2021年の12月18日です。ウェッブ望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡よりもはるかに長い赤外線波長で動作することができます。そのため、ウェッブ望遠鏡は地上の望遠鏡では大気の影響で不可能となる、宇宙の初期の年代からさらに遠くまでを観察して、そのイメージを収集することができます。
ウェッブ望遠鏡の開発中には、厳格な迷光仕様に対する性能評価を行うために、光学エンジニアリングソフトのFREDが使用されました。
開発の道のり
もともと次世代の宇宙望遠鏡 (NGST) として知られていたウェッブ望遠鏡の開発は1996年に始まり、1990年に宇宙に打ち上げられたハッブル望遠鏡の代替として意図されていました。ウェッブ望遠鏡の打ち上げ予定日は、当初2007年とされていましたが、コスト超過を軽減させるためにテスト計画の再設計が必要となり、打ち上げ日は延期されました。
2013年に科学者たちはメリーランド州でウェッブ望遠鏡の建設を開始し、2017年にその建設が完了した後、極低温試験のためにテキサスに輸送されました。そして2018年にウェッブ望遠鏡はカリフォルニアのスペースパークに輸送され、そこでさらに3年間のテストを受け、気候や宇宙の乱気流にも耐久性をきちんと持っていることが確認されました。
ウェッブ望遠鏡は当初2018年の10月に宇宙に打ち上げられるはずでしたが、準備が不十分であると判断され、2019年の6月に延期されたことがあります。その後さらに3回また延期されましたが、ついに2020年の5月と2021年の3月、そして最後に2021年の12月の打ち上げが発表されました。
2021年の9月26日、ウェッブ望遠鏡はカリフォルニアからフランス領ギアナの発射場までボートで輸送されました。その際、以前衛星などの宇宙機器の輸送に使用されていたこともあるMN Colibriと呼ばれる大型船で輸送されました。ちなみにこの旅は16日間の航海となり、総走行距離は2,400キロでした。2021年の10月12日にウェッブ望遠鏡は目的地の仏領ギアナに到着しました。現在(2021年10月)、ウェッブ望遠鏡は2か月後の打ち上げに向けて準備を進めている最中です。
ウェッブ望遠鏡の機能
ウェッブ望遠鏡は、その高度な科学的能力によって私達の宇宙への理解を深めてくれます。科学者達は、今まで解けなかった宇宙の謎について、より多くの洞察を得ることができるでしょう。NASAによると、「ウェッブは、ビッグバン以降の宇宙の歴史すべての段階に関する洞察を明らかにし、科学者たちが近年発見した数千もの太陽系外惑星の中から、潜在的な居住可能性の兆候を見つけ出すのに役立つだろう」と言及しています。これらの発見は、初期の星や銀河の形成等の宇宙の起源に関する科学的進歩をもたらし、地球に似た惑星の探索に役立つ可能性があります。
ウェッブ望遠鏡は主に赤外線波長で宇宙を観測し、深宇宙のより詳細な画像提供を実現します。NASAによると、「遠方の物体ほど赤方偏移が大きくなり、その光は紫外線や可視光から近赤外線に押し出される」そうです。つまり、遠くにある物体を見るには赤外線望遠鏡が必要になるということです。ハッブル望遠鏡は赤外線スペクトルのごく一部しか観測できないので、遠くにある天体を見逃してしまいます。
その一方で、ウェッブ望遠鏡は遠くを見る能力を持っているため、宇宙の観測可能な範囲を拡大します。光が地球に到達するまでに時間がかかるため、ウェッブ望遠鏡は宇宙で最も初期に形成されていた天体のいくつかを観察することが可能になります。ウェッブ望遠鏡の技術のおかげで、ビッグバン直後からいわゆる「赤ちゃん銀河」まで観察することが可能になり、ハッブル望遠鏡よりもさらに7億年も遡った、洞察力に富んだ情報も提供できます。
位置
ウェッブ望遠鏡は、地球から約150万キロメートル離れた第2ラグランジュ点の周りのハロー軌道をたどります。これは、2つの大きな天体 (太陽と地球) の引力の相互作用として最も頻繁に説明されます。その6ヶ月の軌道により、ウェッブ望遠鏡を地球と月の影から遠ざけます。これにより、深宇宙をはっきりと鮮明に見ることができ、天文学者は365日、24時間を通していつでも観測を行うことができます。またこれにより、ウェッブ望遠鏡の太陽シールドを常に太陽に向けることができ、赤外線観測に必要な50ケルビン未満の一定温度が確保されます。
ビデオ提供: アニメーション: ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の軌道
ウェッブ望遠鏡が打ち上げられてから第2ラグランジュ点に到達するまでには約1か月かかります。ウェッブ望遠鏡が目的の軌道点に到達すると、無線リンクを介して制御がされます。ウェッブ望遠鏡は非常に遠隔に位置しているため、コマンドがウェッブ望遠鏡に到達するのに6秒かかり、コマンドが地球に送り返すのにも6秒かかります。
テスト
ウェッブ望遠鏡が実施したテストには、ウェッブ望遠鏡の飛行中の耐久性を確認するためのロケットが打ち上げされた状況のシミュレーションや、宇宙の過酷な状況のシミュレーション、および太陽シールドのスムーズな展開の確保が含まれます。また、科学者達は宇宙で起こりうる潜在的な事故を想定するために、シミュレーターを用いて多くのテストを実施しました。ウェッブ望遠鏡が打ち上げられるまで、彼らはこれらのシミュレーターで予行練習を続け、あらゆる事態に備えています。
準備
折りたたんだ状態で宇宙へ打ち上げられたウェッブ望遠鏡が目的地に到着した後でも、展開作業はすぐには開始できず、35日間望遠鏡を冷却させなければならない待機期間があります。展開が始まると、ウェッブ望遠鏡はその位置から写真を撮って地球に送ります。望遠鏡がきちんと機能するためには、望遠鏡の位置設定が正確でなければならないので、この写真を使用し微調整を行うのです。
2番目のラグランジュ点にまで移動し、望遠鏡の展開を行い、太陽電池アレイの展開も行い、正しく位置設定をするプロセスを完了させるまでには、合計6カ月かかります。
ウェッブ望遠鏡の打ち上げや位置設定の際には、起こりうる様々なトラブルが山ほどあります。FREDなどの光学エンジニアリングソフトを使用すると、そういった問題を軽減させ、決定した期間内にウェッブ望遠鏡を完全に動作させることができます。
FREDでウェッブ望遠鏡を再現することにより、数十億ドルを費やさなくても、各光学コンポーネントのパフォーマンスをテストして高度なイメージングのシミュレーションが実現します。
FREDでジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を作成
光学設計
ウェッブ望遠鏡は球面収差、非点収差、そしてコマ収差の補正を可能にする3ミラーアナスティグマート(TMA)装置です。TMAは、凹面の近似放物面の主鏡、凸面の双曲面の副鏡、そして凹面の楕円形の第三鏡から構成されています。
画像提供: JWST
この第三鏡から反射された光は、その後、光をさまざまな機器に導くために使用される平坦な精密ステアリングミラーに入射します。
赤外線スペクトルで最高の反射効率を確保するために、各ミラーには金のコーティングが施されており、0.6 ~ 28マイクロメートルの高い反射率を提供します。
画像提供:
主鏡の構築
ウェッブ望遠鏡の主鏡は、18個の六角形の鏡で構成されており、その頂点間の距離は1.5 メートル、そして合計半径は6.5 メートルに及びます。
画像提供: JWST
各鏡には、配置の異なる光学的な処方箋を示すためにA、B、または Cのラベルが付けられています。これをFREDで組み立てるために、六角形の曲線を描き、ウェッブ望遠鏡の曲率に一致するサーフェスを切り取るように設定しました (曲率半径 = 15879.7: コニック定数 = -0.9967)。
その後、FREDの組込みスクリプトを使用して六角形の曲線を生成し、18個のセグメントを入力して主鏡を構築しました。
次に、FRED のデジタイザー機能を使用して、主鏡のサーフェスに適用される正確な金のコーティングが作成されました。副鏡、第三鏡、そして微調整ミラーを主鏡に対して配置し、ウェッブ望遠鏡全体に0.18度のフィールドバ
イアスを適用しました。平面波をレンダリングすることにより、3Dビューで光が望遠鏡を通過する経路が表示されます。
フレームの構築
光学部品を収める『フレーム』は、ブーリアン演算のオブジェクト関数とユーザー定義の曲線を利用して、FREDに付属するオブジェクトで全て作成することができます。
精巧なステアリングミラーを収めるセンターピースは、3つのソリッドタイプのオブジェクトを使用して構築されました。N面角錐は、外形を形成するためにブロック要素によって切り取られました。次に、別のブロックを使用して、目的の光線を通過させる開口を作成しました。
ユーザーが設定する曲率とFREDのエレメントモデルの膨大なライブラリを最大限に活用することで、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の実用モデルを構築することができます。
光学シミュレーションソフトの販売およびコンサルティング
CBS Japanでは、光学およびフォトニクス シミュレーション ソフトウェアの販売、コンサルティング、サポート、トレーニングにおいて長年の経験があります。当社は、日本におけるPhoton Engineeringのソフトウェア製品の独占販売代理店です。なにか質問がおありでしたらこちらへお問い合わせください。