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位相シフト干渉計のモデル化
by: CBS Japan
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03 Feb 2022

位相シフト干渉計のモデル化

位相シフト干渉計とは?

表面が特定の形状(平面や球面など)であることが要求される光学系について、どのようにその面を検査したら良いでしょうか? 高精度な製造に欠かせない、設計形状からのずれ量の測定は、位相シフト干渉計で行うことができます。これは、基準面に対して、光路長を変えてインターフェログラムと呼ばれる干渉縞を複数発生させて計算します。このインターフェログラムのセットから、被検面のサグ量または形状を計算で生成することができます。

図1. FREDでの干渉計の例。レンダリングされた光学系と光線追跡だけを示しています。

干渉計のメカニズム

位相シフト干渉計は、オプトシグマ社の商用既製品部品(COTS)を使用して構成されています。光学ケージは、マウントポストや「ありつぎ式」の光学レールと比較して、セットアップが簡単で、光学ベンチに直接差し込むことができるなどの利点があります。また、システム全体が1つのユニットとして出荷され輸送や入手が容易です。そして、1つのCADファイルとして構成をFREDにインポートできます。精密電動ステージは、参照ミラーをλ/8(~80 nm)移動させるために使用しますが、オプトシグマ社のFS-1020UPX電動ステージは、最小分解能1 nm、位置繰り返し精度±2 nmでこの要求を満たしています。

図2. オプトシグマの光ケージ(image link

図3. OptoSigmaの精密電動ステージ(image link)

図4. FREDにおける干渉計の例。OptoSigmaの機構部品(灰色のCADで構成)、光学系(透明)、光線追跡(赤色)を含んでいます。

位相シフト干渉計のモデル化

上記のような解析を適切にモデル化するためには、ソフトウエアとして次の2つの要件を満たす必要があります: (i)コヒーレントビームの伝搬を正確にシミュレートできること。 (ii) インターフェースでCADのような大規模な光学系を扱えること。

FREDの特長のひとつが、コヒーレントレイトレーシングアルゴリズムです。使用されているのは「コンプレックス・レイトレーシング」と呼ばれる方法です。これは、小さなガウシアンビームを伝播させ、非連続的な方法でコヒーレントビーム(複数可)の伝播をシミュレートできます。ビームが分岐したり、光学系の絞りに当たっても、それは本質的に問題無く処理されます。干渉と回折の効果も、すべてアルゴリズムに組み込まれています。

他社の光学ソフトウエアの中には、モデル内のすべての面(光学面と機械面)を長い直線状のリストで表示するものがあり、管理するのが大変でした。FREDは、CADのような「ツリー」を使って、モデルの機械的な部品と光学的な部品の両方を管理します。これは、何千ものコンポーネントやサーフェスを扱う際に必ず必要になることです。FREDはオプトシグマの光学部品のライブラリを内蔵していますが、機械部品はCADファイル(STEP、IGES、OBJ)からインポートすることも可能です。

図5. FREDで生成された4つのインターフェログラムのうちの1つの例です。


図6. 「図 1」 および「図 2」 に示したセットアップの概略図。

試料鏡(被検面)の表面特性を変える

オブジェクトツリーでは、すべての機構部品と光学部品がそれぞれのサブアセンブリに編成されています。FREDの事例には追加した「Sag Surface(サグ面)」という名前の別のサブアセンブリがあり、これにはいくつかの異なる表面特性が含まれています。試料鏡をシステムに追加した当初は、平らな被検査面から始めますが、その後、「modifier(変化させた)」サーフェスを追加することができます。「Sag Surface(サグ面)」に表示されている面は、試料鏡の面に素早く追加して、変異させることができます。この例では、「Freeform(自由曲面)」サーフェスタイプを使用しました。これは、一連の面の乱れがランダムに生成され、面形状に二次曲線によるメッシュとして追加される機能です。

図7. FREDのツリーブランチには、検査をしたいすべての面と、被検面の面プロパティを変更するためのダイアログが含まれています。ワンクリックで、「自由曲面」をあらかじめ定義した別の面に変更することができます。

干渉計の計算

位相シフト干渉計の目的は、被検面とも呼ばれる試料鏡の表面形状を解析することです(図6参照)。平らな参照鏡をナノステージ装置で4回、λ/8ステップで移動させます(総光路長変化量λ/4)。その後、ビームを再合成して、イメージセンサー(FREDでは分析面)上の各参照鏡位置における放射照度を計算します。生成された4つの干渉像の放射照度分布を用いて、以下の式で被検面のラップ位相と呼ばれるものを作成することができます:

ここで、Θ(x,y)は被検面のラップ位相、In(x,y)は各干渉縞で、nは光路長の変化をλ/8ステップ(合計λ/4の変化)で示しています。これらの情報から、未知の表面形状のサグ量を計算することができます。

図8. この位相シフト干渉計 FRED の例から、参照ミラーによって λ/8 ステップごとに作成される 4つの干渉縞。ここで見られる面は「Freeform」タイプです。

FREDで干渉計シミュレーションを実行する為に、主に2つのステップを自動化し、使いやすくしています。FREDのマクロはVisual Basicスクリプト言語を使用しており、簡単にプログラムを作ることができ、かつ強力です。

  • リファレンスミラーの位置を自動的に移動させ、光線追跡を行い、干渉縞の放射照度分布を計算してそれぞれのデータを保存。そして、それらを結合してラップ位相にします。
  • ラップ位相から、位相アンラッピングアルゴリズムを適用し、面のサグ量を算出します。フェーズアンラッピングは複雑な手法であり、このトピックに関する研究論文は多く公開されています。今回の単純な例では、Herraezら(2002)で説明されているアルゴリズムを使用しましたが、これは非常にうまく機能しているようです。

    ラップ位相の計算

    このスクリプトを実行すると、4つの干渉縞とラップ位相が生成されます。これらの結果は、FREDの解析結果ノード(ARN)として保存されます。オブジェクトツリーの分析結果ブランチの下でどれかをダブルクリックすると、図8に見られるように、移動した位置毎の干渉縞が開きます。図9に示すように、ラップ位相には円形の開口部があり、これが被検面に到達するレーザービームの足跡となります。開口部の大きさを見ると、レーザービームが約±3mmの範囲に当たっていることが分かります。

    図9.被検面のラップ位相。図右側の断面プロファイルは、ラップ位相(-π〜π)に存在する不連続性を示しています。

    面のサグ量の計算

    2つ目のスクリプトを実行し、位相をアンラップし、これをミクロン単位のサグ量に変換します。面サグ量ARNをダブルクリックすると、このデモの主な結果が得られます(図10)。この干渉計シミュレーションの目的は、この結果を得ることです。これは、我々が使用した摂動毎のFreeform(自由曲面)に基づく表面のサグ量、すなわち平坦な表面からのずれ量をミクロン単位で表したものです。この結果を見ると、それが0から1/2ミクロン(500nm)の範囲であることがわかります。

    図10.「自由曲面」の割り当てを用いた被検面の面のサグ量。平面からのずれはミクロン単位で示されており、0に近いものからほぼ1/2ミクロン(約500nm)までの範囲にあることがわかります。

    まとめ

    このようなバーチャルなシミュレーションによる光学系の評価は非常に有効です。FREDでは、設計したいシステムが正しくセットアップされているか、被検面上に十分な大きさのレーザーフットプリントがあるか、ステージのアライメント誤差や小さな回転等に問題がないかを確認することができます。

    FREDのデモのご依頼や、お客様のアプリケーションのニーズについて詳しくお聞きになりたい場合は、下記よりCBSJapanまでご連絡ください。 https://cbsjapan.com/page/otoiawase/

    また、オプトシグマ社製のステージ部品に関するお問い合わせは下記までご連絡ください。

    Axel Haunholter a.haunholter@optosigma-europe.com

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